財団法人高輝度光科学研究センター
- 財団法人高輝度光科学研究センターについて教えてください。

利用業務部課長 松本亘 氏 利用業務部 神辺圭一 氏
神辺氏:
高輝度光科学研究センターは、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設、SPring-8(スプリングエイト)の運転・維持管理、利用促進の業務をおこなっています。
SPring-8 Web Site
SPring-8 では、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーから産業利用まで、幅広い研究がおこなわれています。一般には、和歌山毒物カレー事件でのヒ素の同一性確認が有名ですが、ほかにも、NASAの彗星探査機が持ち帰った試料から新物質の発見、インフルエンザウイルスの新薬開発、古代の出土品の産地や輸送経路や製法の推定など、数多くの研究で成果をあげています。
研究成果をやさしく解説 ─ SPring-8 Web Site
よくあるご質問(FAQ)─ SPring-8 Web Site
システム化前の状況(Before)
- キー・プランニングは、利用促進のためのシステム開発を主にお手伝いさせていただきました。このシステムが開発される前の状況を教えてください。
松本氏:
SPring-8 を利用するためには、事前に研究課題の審査を受けて、採択されなくてはなりません。大きくは、年に2回の課題の申請期があるのですが、大量の申請を受けて、審査、採択、スケジュールの決定などを短時間で行うのは、人手も手間もかかる大変な作業でした。
私が FileMaker ユーザだったこともあり、所内の業務をスタッフとともにシステム化したり、一部の手続きを Web 化してはいたのですが、課題の申請が紙ベースのままだったので、大幅な省力化まではできていませんでした。
期ごとに700件以上の課題が申請されるので、郵送された申請課題の内容をチェックして、基本的な申請内容をシステムに入力し直したり、審査員ごとに審査対象の課題を分類してコピー資料をつくったり、課題番号と受理日のスタンプを1万回も押したり、ほかにも様々なことをスケジュールに間に合わせるために、深夜12時頃までの残業もめずらしくなく、当時の担当スタッフは「腱鞘炎になりそう」とよく愚痴をこぼしていました。
なぜキー・プランニング?
- キー・プランニングにお問い合わせをいただいた経緯をお聞かせいただけますか。
松本氏:
制度の変更などもあって、課題申請の記載事項、審査事項などは、毎年のように変更が加わります。「一度作ったら終わり」というシステムにはなりえないので、所内のシステムは FileMaker ベースで自分たちがカスタマイズできるものにしておきたいと考えました。
一方、利用者向けの機能は Web で提供する必要がありましたが、かなり複雑な要件を求められるだけでなく、アクセスの集中する締め切り直前のパフォーマンス、セキュリティといった課題もありました。1997年、SPring-8の供用を開始した時は、自分で WebSTAR、Tango、FileMaker の Web システムを作っていたこともあって、こうした課題をクリアすることが容易ではないことはわかっていました。
専門雑誌、サーバ関連の掲示板、メーリングリストなどで情報を収集して、そこでの発言内容や実績から、キー・プランニングならこうした要件を満たしたシステムを開発できるのではないかと考えて、他の数社と共に問い合わせることにしました。
開発中に遭遇した課題は?
- それから数年にわたって段階的に開発、リリースをおこない、現在の利用者支援システムが完成しましたが、その間には、いくつか難問もあったように思います。発注者の視点でお感じになった問題があれば教えてください。
神辺氏:
プロジェクトが始まったのは、FileMaker がバージョン7で大きく機能強化された頃でした。世界中からの申請を受け付けるため、Unicode 化で多言語対応されたのは朗報でしたが、反面、当初はアクセスの集中時にサーバーが落ちてしまったり、正しい問い合わせ結果が戻らないなど、FileMaker Server Advanced の問題と思われる現象になんどか遭遇しました。
キー・プランニングが FileMaker 社に現象を報告して改善を求めたりはしてくれたのですが、おそらくこの時期に FileMaker を使ったシステムとしては世界的に例がないほど、高度な利用方法をしていたと思われるので、先駆者としての苦労をしばらくは味わうことにもなりました。
幸い、キー・プランニングが問題を回避する対策を講じたり、FileMaker のアップデートやハードウェア強化などをおこなった効果もあって、今では申請の締め切り日にサーバーに張り付く必要もなくなりました。
考えたら、以前は常にシステムのことを気遣っていたのですが、最近は大きなトラブルはほとんど起きていないため、以前ほど神経をすり減らすこともなくなったように感じます。
- わたしたちも先駆者の苦労をともに味わいましたので、管理者の方がご安心していただいているとお聞きできて、うれしいです。
開発後の状況(After)
- システムによって導入前の問題は解消されましたか?
松本氏:
システム導入前は、人手に頼ることが多かったので、ヒューマンエラーもしばしばでしたが、そういったことがほぼなくなりました。もちろん、深夜残業や腱鞘炎の心配はなくなりました(笑)。
最大のメリットは、手続きがオンラインからリアルタイムで行うことができるようになったことで、利用者の利便性が飛躍的に向上したことです。それが、わたしたちの仕事の一番の目的ですので。
また、大型放射光施設は世界でも3施設(ヨーロッパ、アメリカにひとつずつ)しかない最先端の実験施設ですが、SPring-8 がほかに先駆けて、課題申請内容の全てを含めたシステム化、オンライン化を実現できた点は誇りとするところです。
- システムが役立っていて何よりです。逆に、以前より不便になったことはありますか?
神辺氏:
以前は、権限の区別なく、誰でもデータベースを変更することができました。スキルの高いスタッフが自力で問題を解決しようとする意欲を引き出すには良かったのですが、リスク管理や情報保護の問題もあって、現在は担当業務ごとにアクセス制限をもうけています。
人事異動などでメンバーが変わっていることもありますが、現場のスタッフが「管理者に頼めば良い」といった、受動的な傾向は前よりは強まっているかもしれません。管理者に負荷が集中するデメリットもあるのですが、きちんとしたシステム化の代償でもあるので、より良い運営体制を考えながら、試行錯誤しています。
今後の改善予定
- 今後の改善予定などがあればお聞かせいただけますか。
松本氏:
システム開発当時は、現在のシステム構成以上の方法がありませんでしたが、次回の再構築の機会には、Web 公開のエンジンには MySQL などの RDBMS を採用したいと考えています。
目立ったトラブルはなくなったものの、負荷の高いリクエストだと、1件でデータベースサーバの CPU 使用率が 120 %を超える現象などもあって、より多くの機能を提供するためには、よりスケーラビリティのある環境が必要です。ESS(外部データソース)の機能を使って、所内のシステムで FileMaker の長所であるカスタマイズ性を確保できるようになったことは大きいですね。
ほかにも、携帯電話対応など、利用者向けに提供したい未実装の事項もまだまだありますが、予算との兼ね合いもあり、悩ましいところです(笑)。
- その時にまたお手伝いできれば幸いです。今日は貴重なお話をありがとうございました。